日本推理作家協会の「ミステリーの書き方」を読んで

ある日、書店をいつものようにぶらついていました。

書棚に陳列された人気の小説やビジネス本を物色。本の表紙をねめまわしすぎて本を愛しそうになっていたそのときでした。

真っ赤な表紙に黒字でデカデカと「ミステリーの書き方」、というタイトルが書かれた本に遭遇しました。

ぼくは、思わず血を連想させるような真っ赤な表紙に興味を持ちました。

いつも通り裏表紙をみて値段を確認し、本の内容が読解可能で面白いのか、を確かめました。いわゆる試し読み、というやつです。

すると、始めの数10ページをめくっただけで衝撃的な文章に出くわしました。

あなたが学生さんなら、ただちにこの本を閉じてください。そして旅行に出かけるなり、多様な職種のアルバイトを経験するなりして、なるたけ多くの人と環境に接することをお勧めします。そこでの発見、喜び、いらだちが、すべて後の作劇の肥やしになります。それができるのは今だけと覚えておいてください。そのうえで、さまざまなメディア、さまざまなジャンルの作品に触れ、自分の感度に合ったもの(目標となり得るもの)を見つけるよう心がけていただければと思います。(福井晴敏)

この本の目的、というか概要は、

「小説家になるためのノウハウを小説家自身が語る」

というものです。にもかかわらず、冒頭で「この本を閉じろ!!」と命ずる姿勢にココロ打たれました笑。先の文章を読んだだけでこの書籍をレジカウンターに運んでしまったのは言うまでもありません。

 

 

「ミステリーの書き方」の魅力は!??

この本を一言で言い表しますと、

小説家(一流から二流まで)が創作について語った本

です。この本は小説家の内面について語った非常にまれな情報源だと思います。

なぜなら、ぼくのような一般人と小説家の接点というものは「小説」しかないからです。つまり、ある小説家についてもっと知りたいと願うならば、そいつの作品を読み込むほかに道はありません。よほどのコネと財力を持っていない限り小説家と対談するなんてできませんよね???それが現実です。

しかししかし、この本ではその読者のドリームを実現してくれます。

小説家が小説について語った本、

小説家が小説を書くコツについて語った本、

小説家が小説家という職業に対する想いをつづった本、

そんな今までタブーとされていたような秘密のエッセンスを収録したのがこの書籍です。これから小説家になろうと意気込んでいる方、ある小説家が好きだがお近づきになれないと悩んでいる方、など様々な読者に愛される本に仕上がっています。

 

 

「ミステリーの書き方」に参加している著者はだれ??

さんざんここまで「ミステリーの書き方」をほめちぎってきました。

しかし読者の方が気になるのはそんな魅力だけじゃりません。

そう、現実です。

いったい、どんな小説家が本音を語っているのか、ということが非常に気になると思います。お察しの通り、歴史に名を残すような文豪は参戦していません。おもに大衆向けの小説(ミステリー?)を執筆している小説家の方々が参戦しています。

誰もが知っている(ぼくが知っていた)、

  • 東野圭吾
  • 伊坂幸太郎
  • 赤川次郎
  • 石田衣良
  • 北村薫
  • 恩田陸
  • 宮部みゆき
  • 朱川湊人
  • 横山秀夫
  • 乙一

etc……

をはじめとする全45名の推理小説家の方々が小説に関する本音を語ってくれています。

 

 

ぼくが感じた「ミステリーの書き方」の3つの魅力

せっかくなので今日はこの「ミステリーの書き方」が持つ3つの魅力について語ります。

 

魅力1.小説家が執筆する小説以外のコンテンツである

やはりこの本の最大の魅力は小説家が物語以外のコンテンツを創っている点です。

小説家が物語以外の手段でぼくたち読者と対話することは稀です。おそらく、著者がよほど外交的で頻繁にダンスクラブでダンスをしていたり、銀座で人の手相を占ったりしない限り実現しません。

しかも彼らは以下のような幅の広い情報をぼくら読者に与えてくれています。

  • 独自の文体の身に着け方
  • 小説家という職業の苦しさ
  • ネタの見つけかた
  • 体言止めの使い方
  • 文章のリズム
  • 性描写の方法
  • 書き続けるコツ

etc……

このような文章を書くコツや小説家の生活の本音なんて知っている友人います!??

答えは否。全人口のほんの一握りの人間しか小説家になりません。そのような特殊で孤独な人生を送っている彼らでしかこれらの情報は生み出せません。そういった意味で貴重な本であると言えますね。

 

魅力2.小説家になるための秘訣が満載

この本の最大の魅力、それは小説家が贈る小説家志望のヒトに対してのエールです。

夢をかなえた小説家たちからのアドバイスはかなり説得力があります。

さまざまな小説家の方が好き勝手なことを言っていますが、大きくわけますと以下の5つのポイントになります。

  1. 書くのがすき。書かざるを得ないヒト。
  2. 多読が大切。
  3. 名誉欲がないひと
  4. オンリーワンであれ
  5. 兼業にしたほうがいい

とくに印象的だったのが東野圭吾さんの応答。

「作家志望の方になにかアドバイスがあればお願いします」というコラムで彼は、

やめたほうがいい。

と簡潔な意見を述べていました。このコメントを目にしたとき思わず笑ってしました。そ、そんなに正直に言わなくても。ただ、この7文字のコメントには、創作活動を続ける苦労が込められているのかもしれませんね。

 

魅力3.物語のつくり方が満載

売れっ子の小説家たちがどのように物語を紡いでいるのか。

こんなことは一般人のぼくらには検討がつきません。「ミステリーの書き方」ではミステリー作家の方々が、基本的な物語のつくり方を披露してくださっています。

中でもぼくの目を引いたのは乙一さんのプロット作成術です。

彼はハリウッド映画の脚本術で小説を創っているらしいのです。え、映画脚本だって!?

乙一さんがこの本で指摘しているのは、

ハリウッドの脚本は数学的につくられている、ということです。

簡単に説明しますと、全体の物語を4分の一にわけて、その分割された場面同士で分岐点を設ければいいのです。

ちょ、ちょっと言葉に窮したのでそこで詳しくは上で例にあげた「ハリウッドストーリーテリング」か本書籍を参考にしてください笑。物語のプロットに関する記事は別途に書くことにします!

ストーリーの種はあるのだけれど、どのように物語を語ったらいいのかわからない。そんな方はぜひこの本を読んで頭をスッキリさせて創作に臨んでくださいな。

 

 

以下、「ミステリーの書き方」の魅力的な引用文

最後にこの本に登場する魅力的なメッセージを引用して終わりたいと思います。

 

文章は書けば書くほど上達する。私はまず、好きな作家の文章の模倣から始めて、自分の文体を積み上げていった。文体とは、その作者独自の個性的な文章である。作者独自の誤用や誤字も、文体に含まれる。(森村誠一)

表現する者の目になってみると、いろんな細かいものが自然に見えてくるはずなんです。そういう目を持った人が、表現者なんです。<書く>ということが表現ではなく、<見る>ということが表現なんです。
舞台の端から端まで全部書く必要はなくて、情景を立ち上がらせる一点がなにかあるわけです。このときにこんな何げない動作をする、こういう場面でこういうことをした人だよ、というエピソードなど、なにか一点があればいいんです。
「書く」ということはじつは「見る」ということなんです。書くというのはただその見たことを写していく作業です。だから、見るということがすなわち文章力なんですね。見るっていうのは、いろんな意味での「見る」です。人間を見るっていうのもそうだし、人間関係を見るっていうのもそうだし。そういう目がなかったら、まずだいたいテーマ自体が浮かんでこないはずです。人生、そういうものや、いろんな人を見ているから、ああ、あれを書きたいと思うわけです。そいう目がなければ書きたいことがないことになります。何よりもまず、そういう目を養うことが大事ですね(北村薫)

この世の人を大雑把に無責任にイワイが分類すれば、相手に膝をー①「向けられていることに気づく人」 ②「向けられていることに気づかない人」 ③「向けられていないことに気づく人」 ④「向けられていないことに気づかない人」となる。(岩井志摩子)

魅力的な主人公には、みな、弱点がある。(東直己)

現役時代の落合博満がスランプについて訊かれ「スランプに陥ったといえるのは王さんと長嶋さんだけ」と答えたことがあります。それ以外の選手がスランプというなどおこがましいという意味です。物語もそれと一緒で、スランプといえるのは漱石と鴎外ぐらいで(いったかどうか知りませんが)、私も含めてごく普通の力量の物書きが、スランプに陥るなどととんでもない話です。
もっとも、真っ先に解ておきたい心得はただひとつ。書き続けろ!歯を食いしばって書き続けろ!です。(香納諒一)

映画評論家の故小川徹に言われた言葉「書くんなら恥を書けよ、恥を。他人の恥を見て、読者は喜ぶんだ。イイ格好したけりゃ、お前が金を払うんだな」を、そのまま贈ります。「自分は何を表現したい」という自己主張は捨てること。読者を説得しようとしないで、むしろ驚かせたり笑わせたり、怖がらせたりすることを主眼にする。”個性”や”自己表現”なんて、どんな書き方をしたって自然に滲み出て来る。(友成純一)

 

ってな感じです。少しでも小説・ミステリーの創作に興味がある方にはオススメです。よかったら読んでみてくださいね。

それでは。

Ken Sawai